周波数分析と周波数分析器

周波数分析と周波数分析器

一般に音や振動現象は周波数特性を持っています。
多くの周波数成分が複雑に混在しており、その周波数ごとの成分の大きさ(レベル)を調べることを周波数分析といいます。
騒音・振動対策も全ての周波数帯域で効果を持つわけではありませんので、対策の目標値や評価は周波数ごとに行う必要があります。

周波数分析器の分類

周波数分析器は使用目的により表1のように分類することができます。
表1 周波数分析の種類
① 周波数分析器 音・振動の周波数分析は実時間分析器とFFT分析器が目的により使い分けられます。
(図1は同じ信号波形をオクターブバンド分析した結果と、FFT分析した結果です)
実時間分析器は定比幅のバンドパスフィルタ(1/1、1/3、1/Nオクターブバンド)を使用し、主に感覚量評価を中心とした周波数分析に使用されます。
FFT分析器は演算(高速フーリエ変換)で定幅分析されます。主に物理的評価を中心とした周波数分析に使用されます。
図1 オクターブバンド分析結果、FFT分析結果
② 定比型フィルタと
  定幅型フィルタ
周波数分析器を構成するフィルタには定比型と定幅型の2種類があります。 これはフィルタの通過帯域幅による分け方で定比型では中心周波数に比例してフィルタ幅が変動し、定幅型では常に一定の幅を持っています。
これを図示すると図2のように周波数軸を対数にすると定比型フィルタではどのバンドも同じ幅となり、定幅型フィルタは周波数が高くなるにつれて狭く表示されます。
したがって分析結果を図示する場合、定比型フィルタでは周波数軸を対数に、また、定幅型フィルタでは等間隔に取ります。
③ フィルタの規格 音響・振動用オクターブバンドおよび1/3オクターブバンド分析器はJIS C 1513で、オクターブバンドおよび1/Nオクターブバンドフィルタの特性はJIS C1514で規定されます。
国際的にはIEC 61260またANS(I 米国規格)で規定されます。
国際規格でフィルタ規格が定められていますのでデータの比較が容易です。
FFT分析器にはJISならびに国際的な規格はありません。従って性能・設定により分析結果が異なる場合があります。
図2 対数スケールでの定比と定幅フィルタのバンド幅の変化

周波数分析器の使い分け

① 実時間分析器 騒音レベル・振動レベルなど感覚量の評価や対策の評価にオクターブバンド、1/3オクターブバンド分析が主に使用されます。
騒音計、振動レベル計と同じ感覚補正特性(周波数重み特性、時間重み特性、周波数の対数表示)を使用して平均化を行えますので、感覚量を評価する測定に適しています。
建築音響関係の遮音性能、室内騒音評価、音響パワーレベル、建築材料評価、音質評価、伝搬系の特性などの測定に使用されます。
② FFT分析器 音・振動現象を物理的に把握し、対策を主目的とする周波数分析器です。
時間領域、周波数領域で分析できますので汎用性に優れています。
周波数分解能に優れていますので、騒音源、振動源の特定には欠かせません。
また、多チャンネル間信号(音と振動など)の相関性なども分析でき、自動車、機械、コンピュータ、家電製品などの騒音・振動分析、防振材・制振材料の開発・評価、機械インピーダンス、モード解析、インテンシティ測定、トラッキング分析、伝搬系の特性、音質評価などの測定に使用されます。
一般の騒音、振動対策・評価には欠かせません。

FFTと信号処理

① FFT分析器 FFT(高速フーリエ変換・Fast Fourier Transform)を用いた分析結果の帯域幅は定幅型です。
FFT分析器の構成は、入力された信号から分析帯域外の信号を取り除くためローパスフィルタ(アンチエリアジングフィルタ)を通り、A/D回路でデジタル信号に変換されます。
さらに時間窓(ウィンドウ)の処理を行いFFT演算する、離散的周波数分析方法です。
② 信号処理 FFT分析器は振幅情報と位相情報も得られます。
時間領域では時間波形、自己相関、相互相関、振幅確率密度関数、また周数領域ではスペクトル、2チャンネル間ではクロススペクトル、伝達関数、コヒーレンス関数の演算、インテンシティの計測、オクターブバンド、1/3オクターブバンド分析(オクターブ合成)、さらにシステムとしてモード解析、トラッキング分析が行えます。
図3 FFT分析器(スペクトル分析)
FFT分析器による諸関数の関係